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終助詞とは
助詞は、その代表的なものに「てにをは」があり、その機能は、他の語との関係を示したり、語に一定の意味を添えたりします。
終助詞は、助詞の種類のひとつであり、文の終わりに付いて、その文に一定の意味を添える働きがあります。
古文の終助詞の代表的なものには、「ばや・しか・てしか(てしが)・てしかな(てしがな)・にしか(にしが)・にしかな(にしがな)・なむ(なん)・もが・もがな・がな・な・そ・か・かな・かし」があります。
今回は、終助詞の「なむ」について解説します。
終助詞「なむ」の用法と接続
終助詞「なむ」は『他への願望』を表します。
終助詞「なむ」は活用語(動詞や助動詞、形容詞、形容動詞)の未然形に接続します。
終助詞「なむ」の『他への願望』用法
『他への願望』は、他に対する願望を表す言い方です。
現代語訳は「~てほしい」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ いつしか梅咲かなむ 〔更級日記〕
(現代語訳:早く梅が咲いてほしい)
⑵ 「惟光(これみつ)とく参らなむ」とおぼす 〔源氏物語〕
(現代語訳:「惟光が早く参上してほしい」とお思いになる)
「なむ」の識別
文の中で動詞の後に「なむ」という語が続いた場合、3つの可能性、①終助詞「なむ」、②係助詞「なむ」、③『完了・強意』の助動詞「ぬ」の未然形+『推量・意志』の助動詞「む」のどれかであると考えられます。
したがって、動詞の後の「なむ」がどういう意味を表すかを判断する為には、「なむ」の識別が必要になります。
「なむ」の識別のやり方は簡単で、「なむ」の直前の動詞の活用に注目します。
「なむ」の識別は直前の動詞の活用に注目する
①終助詞「なむ」
「なむ」の直前の動詞の活用が未然形であれば、①終助詞「なむ」です。
『他への願望』用法で、現代語訳は「~てほしい」となります。
②係助詞「なむ」
「なむ」の直前の動詞の活用が連体形であれば、②係助詞「なむ」です。
『強意』用法で、現代語訳では特に訳さなくてよいです。
③『完了・強意』の助動詞「ぬ」の未然形+『推量・意志』の助動詞「む」
「なむ」の直前の動詞の活用が連用形であれば、③『完了・強意』の助動詞「ぬ」の未然形+『推量・意志』の助動詞「む」です。
『推量の強調』『意志の強調』用法で、現代語訳では「きっと~だろう」「必ず~しよう」となります。
それでは、「なむ」の識別について、例文で確認してみましょう。
⑴ いつしか梅咲かなむ 〔更級日記〕
(現代語訳:早く梅が咲いてほしい)
⑵ 盛りにならば、容貌(かたち)も限りなくよく、髪もいみじく長くなりなむ 〔更級日記〕
(現代語訳:女盛りになるならば、顔立ちもこの上なく美しく、きっと髪もたいそうながくなるだろう)
⑶ その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける 〔竹取物語〕
(現代語訳:その竹の中で、根もとが光る竹が一本あった)
例文⑴は、「なむ」の直前のカ行四段動詞〔咲く〕が未然形の〔咲か〕になっているので、「なむ」は終助詞の「なむ」になります。
例文⑵は、「なむ」の直前のラ行四段動詞〔なる〕が連用形の〔なり〕になっているので、「なむ」は『完了・強意』の助動詞「ぬ」の未然形+『推量・意志』の助動詞「む」になります。
例文⑶は、「なむ」の直前が体言の〔竹〕なので、「なむ」は係助詞の「なむ」になります。(ちなみに、係助詞「なむ」は『係り結びの法則』によって結びの語を連体形にするので、結びの語に注目して「なむ」を識別することも可能です。この例文では結びの語である助動詞の「けり」が連体形「ける」になっていることからも「なむ」が係助詞であることが分かります。)
「なむ」の直前の語が動詞でない場合の識別
「なむ」の直前の語が動詞でない場合は、④ナ変動詞の未然形活用語尾+『推量・意志』の助動詞「む」、②係助詞「なむ」のどちらかであると考えられます。
④ナ変動詞の未然形活用語尾+『推量・意志』の助動詞「む」
「なむ」の「な」が動詞の一部である場合、④ナ変動詞の未然形活用語尾+『推量・意志』の助動詞「む」であると判断できます。
ナ変動詞の意味+『推量』『意志』用法で、現代語訳では「~だろう」「~よう」となります。
ナ変動詞には「死ぬ」「住(い)ぬ」「去(い)ぬ」などがあります。
②係助詞「なむ」
「なむ」の前の語が形容詞の連用形「~く」「~しく」、形容動詞の連用形「~に」、『打消』の助動詞の連用形「ず」の場合、体言(名詞)・副詞・助詞の場合、「なむ」は②係助詞「なむ」であると判断できます。
『強意』用法で、現代語訳では特に訳さなくてよいです。
係助詞「なむ」は体言(名詞)、副詞、助詞、活用語の連体形に接続しますが、連用修飾語に付くときは連用形に接続します。
それでは、例文で確認してみましょう。
⑴ 早く去(い)なむとて 〔土佐日記〕
(現代語訳:早く去ろうといって)
⑵ 百敷(ももしき)に行きかひ侍らむことは、まして、いと憚(はばか)り多くなむ 〔源氏物語〕
(現代語訳:宮中に出入りしますようなことは、なおさら、とても遠慮が多く(ございまして))
⑶ もし賢女あれば、それもものうとくすさまじかりなむ 〔徒然草〕
(現代語訳:もし賢女がいるならば、それもまたうとましくきっと興ざめなものだろう)
例文⑴は、「なむ」の「な」がナ変動詞「去(い)ぬ」の未然形活用語尾になっているので、「なむ」はナ変動詞の未然形活用語尾+『推量・意志』の助動詞「む」になります。
例文⑵は、「なむ」の直前の形容詞〔多し〕が連用形の〔多く〕になっているので、「なむ」は終助詞の「なむ」になります。
例文⑶は、「なむ」の直前の形容詞〔すさまじ〕が補助活用の連用形の〔すさまじかり〕になっていて、「なむ」は『完了・強意』の助動詞「ぬ」の未然形+『推量・意志』の助動詞「む」になります。(もし本活用の連用形〔すさまじく〕+「なむ」であったならば、その「なむ」は終助詞の「なむ」になります。形容詞の連用形に「なむ」が付いている場合は、このように注意が必要です。)
まとめ
古文で用いられる終助詞「なむ」の用法・現代語訳は次の通り。
用法:『他への願望』 現代語訳:~てほしい
古文で用いられる終助詞「なむ」は未然形に接続する。
- 「なむ」の直前の動詞の活用が未然形であれば、①終助詞「なむ」です。
- 「なむ」の直前の動詞の活用が連体形であれば、②係助詞「なむ」です。
- 「なむ」の直前の動詞の活用が連用形であれば、③『完了・強意』の助動詞「ぬ」の未然形+『推量・意志』の助動詞「む」です。
- 「なむ」の「な」が動詞の一部である場合、④ナ変動詞の未然形活用語尾+『推量・意志』の助動詞「む」です。
- 「なむ」の前の語が形容詞の連用形「~く」「~しく」、形容動詞の連用形「~に」、『打消』の助動詞の連用形「ず」の場合、体言(名詞)・副詞・助詞の場合、「なむ」は②係助詞「なむ」です。