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終助詞とは
助詞は、その代表的なものに「てにをは」があり、その機能は、他の語との関係を示したり、語に一定の意味を添えたりします。
終助詞は、助詞の種類のひとつであり、文の終わりに付いて、その文に一定の意味を添える働きがあります。
古文の終助詞の代表的なものには、「ばや・てしが・てしがな・にしが・にしがな・なむ(なん)・もが・もがな・がな・な・そ・か・かな・かし」があります。
今回は、終助詞の「ばや」について解説します。
終助詞「ばや」について
終助詞「ばや」は、接続助詞「ば」に係助詞「や」が付いた「ばや」が一語化したものです。
終助詞「ばや」には、『自己の希望』『意志』『強い打消』という3つの用法(意味を添える働き)があります。
終助詞「ばや」の接続は、未然形接続です。つまり、終助詞「ばや」が動詞や助動詞の後に続けて用いられる場合、その前に置かれる動詞や助動詞は未然形になります。
終助詞「ばや」の『自己の希望』用法
『自己の希望』は、自分の身に起こってほしい希望を表す言い方です。
現代語訳は「~たい」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ いましばしもあらばやと思へど、明くれば、ののしり出(い)だし立つ 〔蜻蛉日記〕
(現代語訳:もうしばらくも(ここに)いたいと思うけれども、(夜が)明けると、騒ぎたてて出発する)
⑵ 世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ 〔更級日記〕
(現代語訳:世の中に物語というものがあるとか聞いているが、それをなんとかして見たいものだと思いつづけ)
終助詞「ばや」の『意志』用法
『意志』は、話し手のある事を実現させようとする意向を表わす言い方です。
現代語訳は「~(し)よう」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 今日は(こんにった)舟を急ぎ、人びとを渡さばやと存じ候ふ 〔隅田川 謡曲〕
(現代語訳:今日は舟を急いでこぎ、人々を(対岸に)渡そうと思います)
終助詞「ばや」の『強い打消』用法
『強い打消』は、動詞が表す動作・作用・存在・状態などを強く否定します。
現代語訳は「まったく~(で)ない」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 宮仕(づか)ひをしやうにも衣裳(いしやう)有らばや 〔田植草紙〕
(現代語訳:宮仕えをしようにも衣装がまったくない)
終助詞「ばや」と「ば+や」の識別
終助詞「ばや」は接続助詞「ば」に係助詞「や」が付いた「ばや」が一語化したものですが、接続助詞「ば」と係助詞「や」が一語化せずにそのまま「ば+や」の連語として使われることもあります。
この場合、『仮定条件の疑問』もしくは『確定条件の疑問』を表します。
さらに、文末の活用語は係助詞「や」を受けて連体形になります。(係り結びの法則)
① 動詞の未然形(=未だそうなっていないという状況に対して用いられる形)に連語「ば+や」が付いた場合、『仮定条件の疑問』を表します。
② 動詞の已然形(=既にそうなっているという状況に対して用いられる形)に連語「ば+や」が付いた場合、『確定条件の疑問』を表します。
『仮定条件の疑問』を表わす「ば+や」
動詞の未然形に連語「ば+や」が付く場合、『仮定条件の疑問』を表します。
仮定条件の疑問とは、仮に想定した条件に対して、疑問を投げかけるという表現です。
現代語訳は「(もし)…だとしたら、~(だろう)か」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 秋の夜の千夜(ちよ)を一夜になずらへて八千夜(やちよ)し寝ばやあく時のあらむ 〔伊勢物語〕
(現代語訳:秋の長夜の千夜を一夜になぞらえて、八千夜もともに寝たとしたら、満足するときがあるだろうか)
例文では、「ばや」の係助詞「や」の働き(係り結びの法則)によって、「あらむ」の助動詞の「む」は連体形になります。
『確定条件の疑問』を表わす「ば+や」
動詞の已然形に連語「ば+や」が付く場合、『確定条件の疑問』を表します。
仮定条件の疑問とは、ある確定した条件(ある事実)に対して、疑問を投げかけるという表現です。
現代語訳は「…ので、~(なのだろう)か」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 久方の 月の桂(かつら)も 秋はなほ もみぢすればや 照りまさるらむ 〔古今和歌集〕
(現代語訳:月に生えている桂の木も、秋にはやはり紅葉するので、(月が)いっそう照り輝いているのだろうか)
例文では、「ばや」の係助詞「や」の働き(係り結びの法則)によって、「照りまさるらむ」の助動詞の「らむ」は連体形になります。
「ばや」の識別について
「ばや」が終助詞であるか、接続助詞「ば」と係助詞「や」の連語「ば+や」であるかを見分ける方法は二つあります。
ひとつめは、「ばや」が接続する語に注目するというやり方です。
終助詞「ばや」は未然形接続であり、連語「ば+や」は未然形もしくは已然形に接続します。
したがって、「ばや」が未然形に接続している場合は、接続のみで見分けることが不可能ですが、已然形に接続している場合は連語「ば+や」が使われていると判断することができます。
ふたつめは、「ばや」の文末の語に注目するというやり方です。
連語「ば+や」の文末には、係助詞「や」の係り結びの法則によって、連体形の語が現れます。
つまり、「ばや」の文末に連体形の語があれば、連語の「ば+や」で、連体形の語がなければ終助詞の「ばや」であると判断することが可能です。
終助詞「ばや」の解説 まとめ
今回学んだことをまとめます。
・終助詞「ばや」の3つの用法(意味を添える働き)は『自己の希望』『意志』『強い打消』である。
・終助詞「ばや」は未然形に接続する。
・『自己の希望』 現代語訳:~たい
・『意志』 現代語訳:~(し)よう
・『強い打消』 現代語訳:まったく~(で)ない
・接続助詞「ば」と係助詞「や」が一語化せずにそのまま「ば+や」の連語として使われることがある。
・動詞の未然形(=未だそうなっていないという状況に対して用いられる形)に連語「ば+や」が付いた場合、『仮定条件の疑問』を表す。
・動詞の已然形(=既にそうなっているという状況に対して用いられる形)に連語「ば+や」が付いた場合、『確定条件の疑問』を表す。
・『仮定条件の疑問』 現代語訳:(もし)…だとしたら、~(だろう)か
・『確定条件の疑問』 現代語訳:…ので、~(なのだろう)か