漢文の句法(句形)のうち、疑問形について説明します。
目次
疑問形とは
疑問形は、相手に質問をしたり、自分に問いかけをしたりする場合に用いられる形です。
疑問形には、文末に疑問の助字を使う場合、疑問詞を使う場合、両方を使う場合の3通りがあります。
疑問形ー疑問を表す助字を使う
疑問を表す助字『乎』
・読み方は「~か」「~や」
(体言・連体形に接続する場合は「か」 / 終止形に接続する場合は「や」と読む)
・訳し方は「~か」
となります。
『乎』は文末に置いて疑問を表します。『乎』の他に「哉」「也」「与」「歟」「邪」「耶」なども使われます。この中で「哉」と「也」は「や」と読むことが多いです。
例文を確認してみましょう。
⑴ 明友と交はりて信ならざるか (現代語訳:友人と交際して、信義を尽くさなかったか)
⑵ 所謂天道は是か、非か (現代語訳:世にいう天道は、正しいのか、正しくないのか)
⑶ 若は吾が故人に非ずや (現代語訳:あなたは私の旧友ではないのか)
⑷ 女会稽の恥を忘れたるか (現代語訳:あなたは会稽山で受けた屈辱を忘れたのか)
⑸ 子は三閭大夫に非ずや (現代語訳:あなたは三閭大夫ではないのか)
疑問詞を用いた疑問形
漢文の疑問詞を用いた疑問形について説明します。
疑問詞『何』を使う形
疑問詞「何」には、理由を問う場合と事物を問う場合の2種類があります。
疑問詞『何』(理由を問う)
・読み方は「なんゾ~(や)」
・訳し方は「どうして~か」
となります。
※『何』の他に「奚」「胡」「曷」なども使われます。文末に「哉」「也」を伴なうこともあります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 何ぞ前には倨(おご)りて後には恭(うやうや)しきや (現代語訳:どうして已然はいばっていたのに、今はこんなに丁寧なのか)
⑵ 何ぞ自(みづか)ら妄(みだり)に劉季(りうき)に与ふるを許せる (現代語訳:どうして自分からみだりに劉季に与えるのを許したのか)
疑問詞『何』(事物を問う)
・読み方は「なにヲカ~(や)」
・訳し方は「なにを~か」
となります。
※『何』の他に「奚」も使われます。文末に「哉」「也」を伴なうこともあります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 此の三者に於いて何をか先にせん (現代語訳:この三つのものの中で何を先にしようか)
⑵ 大王(だいわう)来(きた)るとき何をか操(と)れる (現代語訳:大王はおいでになるとき、何をお持ちになったか)
疑問詞『安』を使う形
疑問詞「安」には、場所を問う場合と理由を問う場合の2種類があります。
疑問詞『安』(場所を問う)
・読み方は「いづクニカ~(や)」
・訳し方は「どこに(どこで)~か」
となります。
※『安』の他に「悪」「焉」「何」なども使われます。文末に「乎」「哉」を伴なうこともあります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 沛公(はいこう)安(いづ)くにか在る (現代語訳:沛公はどこにいるのか)
⑵ 今蛇安(いづ)くにか在る (現代語訳:今蛇はどこにいるか)
疑問詞『安』(理由を問う)
・読み方は「いづクンゾ~(や)」
・訳し方は「どうして~か」
となります。
※『安』の他に「悪」「焉」「烏」「寧」「庸」なども使われます。文末に「乎」「哉」を伴なうこともあります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 君安(いづ)くんぞ項白(かうはく)と故(ゆゑ)有る (現代語訳:君はどうして項白と知り合いなのか)
疑問詞『孰』を使う形
疑問詞「孰」には、人物を問う場合と比較・選択を問う場合の2種類があります。
疑問詞『孰』(人物を問う)
・読み方は「たれカ~(ヤ・ゾ)」
・訳し方は「だれが~か」
となります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 弟子孰(たれ)か学を好むと為す (現代語訳:(お前は)弟子の中でだれが学問を好きだと思うか)
疑問詞『孰』(比較・選択を問う)
比較・選択とは、二つ以上のものや、二人以上の人物から、一つあるいは一人を選ぶことです。
・読み方は「いづレカ~(ヤ・ゾ)」
・訳し方は「どちらが~か」
となります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 膾炙(くわいしゃ)と羊棗(やうさう)と孰(いづ)れか美(うま)き (現代語訳:なますやあぶり肉となつめとでは、どちらがおいしいか)
⑵ 女(なんぢ)と回(くわい)と、孰(いづ)れか愈(まさ)れる (現代語訳:あなたと顔回とは、どちらがすぐれているか)
疑問詞『誰』を使う形
疑問詞「誰」は人物について問います。
疑問詞『誰』
・読み方は「たれカ~(ヤ・ゾ)」
・訳し方は「だれが~か」
となります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 誰(たれ)か衣を加ふる者ぞ (現代語訳:だれが衣服をかけてくれたのか)
疑問詞『何為』を使う形
疑問詞「何為」は原因・理由について問います。
疑問詞『何為』
・読み方は「なんすレゾ~(や)」
・訳し方は「どうして~か」
となります。
※『何』の代わりに「奚」「胡」「曷」なども使われます。文末に「也」「哉」を伴なうこともあります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 行ひ何為れぞ踽踽(くく)涼涼(りやうりやう) (現代語訳:行動がどうして孤独で人に人に親しまれないのか)
⑵ 何為れぞ壮士を斬る (現代語訳:どうして立派な男を斬るのか)
疑問詞『幾何(幾許)』を使う形
疑問詞「幾何(幾許)」は数量や程度について問います。
疑問詞『幾何(幾許)』
・読み方は「~いくばくゾ」
・訳し方は「~どれほどか」
となります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 相ひ去ること復た幾許ぞ (現代語訳:互いに離れているのはまたどれほどか)
疑問詞『何以』を使う形
疑問詞「何以」は手段・方法や原因・理由について問います。
疑問詞『何以』
・読み方は「なにヲもつテ(カ)~(カ・ヤ)」
・訳し方は「どうやって~か(手段・方法)」「どうして~か(原因・理由)」
となります。
※文末に「也」「哉」を伴なうこともあります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 何を以て其の将に殺されんとするを知るか (現代語訳:どうやって彼が今にも殺されようとしていることを知ったのか)
⑵ 何を以て吾が国を利する (現代語訳:どうやって我が国に利益をもたらすのか)
疑問詞『何処』を使う形
疑問詞「何処」は場所(起点)について問います。
疑問詞『何処』
・読み方は「いづレノところヨリカ~(スル)」
・訳し方は「どこから~(する)か」
となります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 公(こう)何(いづ)れの処(ところ)よりか来(きた)る (現代語訳:あなたはどこからいらっしゃったのですか)
疑問詞『何時』を使う形
疑問詞「何時」は時間(時期)について問います。
疑問詞『何時』
・読み方は「いづレノときニカ~(スル)」
・訳し方は「いつ~(する)か」
となります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 何れの時にか復た此の君に見(まみ)ゆる (現代語訳:いつまたこの君にお会いするのか)
疑問詞『何許』を使う形
疑問詞「何許」は場所について問います。
疑問詞『何許』
・読み方は「~いづこ」
・訳し方は「~どこ」
となります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 夫人(ふじん)の魂(たましひ)は何許に在りや (現代語訳:夫人の魂はどこにいるのか)
疑問詞『何故』を使う形
疑問詞「何故」は理由について問います。
疑問詞『何故』
・読み方は「なんノゆゑニ~(スル)」
・訳し方は「どうして~か」
となります。
例文を確認してみましょう。
⑴ 丞相何の故(ゆゑ)に大(おほ)いに笑ふ (現代語訳:宰相はどうして大いに笑うのか)
まとめ
漢文の疑問形についてまとめます。
日本語(現代語)では、疑問を表す際に文末に「か」を置きます。
漢文では、疑問を表す助字『乎(哉・也・与・歟・邪・耶)』を用います。
日本語(現代語)では、原因・理由を問う際に「どうして~か」と表現します。
漢文では、疑問詞の『何(なん)ぞ』『安(いづ)くんぞ』『何為(なんす)れぞ』『何を以て』『何の故(ゆゑ)に』を用います。
日本語(現代語)では、事物を問う際に「なにを~か」と表現します。
漢文では、疑問詞の『何(なに)をか』を用います。
日本語(現代語)では、場所を問う際に「どこに(どこで)~か」と表現します。
漢文では、疑問詞の『安(いづ)くにか』『何れの処よりか』『何許(いづこ)』を用います。
日本語(現代語)では、人物を問う際に「だれが~か」と表現します。
漢文では、疑問詞の『誰(たれ)か』『孰(たれ)か』を用います。
日本語(現代語)では、比較・選択を問う際に「どちらが~か」と表現します。
漢文では、疑問詞の『孰(いづ)れか』を用います。
日本語(現代語)では、比較・選択を問う際に「どれほどか」と表現します。
漢文では、疑問詞の『幾何(いくばく)ぞ』『幾許(いくばく)ぞ』を用います。
日本語(現代語)では、手段・方法を問う際に「どうやって~か」と表現します。
漢文では、疑問詞の『何を以て』を用います。
日本語(現代語)では、時間を問う際に「いつ~(する)か」と表現します。
漢文では、疑問詞の『何れの時にか』を用います。