目次
格助詞とは
助詞は、その代表的なものに「てにをは」があり、その機能は、他の語との関係を示したり、語に一定の意味を添えたりします。
格助詞は、助詞の種類のひとつであり、その助詞の付いた語が、文中でどういう資格になるかを示す働きがあります。
古文の格助詞の代表的なものには、「が・の・を・に・へ・と・より・から・にて・して」があります。
古文の格助詞は、現代語の格助詞と共通する部分が多いので比較的容易に理解することが可能です。
今回は、格助詞の「を」「へ」「と」について解説します。
格助詞の接続
格助詞は、体言や活用語(動詞や助動詞、形容詞、形容動詞)の連体形に接続します。
次に、格助詞「を」「へ」「と」の用法を学びましょう。
格助詞「を」「へ」「と」の用法
格助詞「を」には、『対象』『起点・経過点』の用法があります。
格助詞「へ」には、『方向』『対象・相手』の用法があります。
格助詞「と」には、『共同者』『比較の基準』『引用』『並列』『変化の結果』『比喩』『強意』の用法があります。
それでは、それぞれの用法について詳しくみていきましょう。
格助詞「を」の用法
格助詞「を」には、『対象』『起点・経過点』の2つの用法があります。
格助詞「を」の『対象』用法
対象とは、格助詞の付いた語が動作の対象になることを示します。
現代語訳はそのまま「~を」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 野山にまじりて竹を取りつつ 〔竹取物語〕
(現代語訳:野山に分け入って竹を採取しては)
格助詞「を」の『起点・経過点』用法
起点・経過点とは、格助詞の付いた語が起点・経過点になることを示します。
現代語訳はそのまま「~を」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 黒崎の松原を経てゆく 〔土佐日記〕
(現代語訳:黒崎の松原を通り過ぎて行く)
格助詞「へ」の用法
格助詞「へ」には、『方向』『対象・相手』の2つの用法があります。
格助詞「へ」の『方向』用法
方向とは、格助詞の付いた語が動作や作用の方向を示します。
現代語訳は「~に」「~の方へ」「~に向かって」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 京へ帰るに女子(をんなご)のなきのみぞ悲しび恋ふる 〔土佐日記〕
(現代語訳:京の都に向かって帰るのだが、娘がいないのだけが悲しく恋しく思われる)
格助詞「へ」の『対象・相手』用法
対象・相手とは、格助詞の付いた語が動作や作用の対象・相手を示します。
現代語訳は「~に」「~に対して」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ わが心ひとつにてはかなじ。このよしを院へ申してこそは 〔宇治拾遺物語〕
(現代語訳:私の一存で(きめること)はできないだろう。この事情を院に申し上げて(なんとかしよう))
格助詞「と」の用法
格助詞「と」には、『共同者』『比較の基準』『引用』『並列』『変化の結果』『比喩』『強意』の7つの用法があります。
格助詞「と」の『共同者』用法
共同者とは、格助詞の付いた語が動作を共にする相手を示します。
現代語訳は「~と」「~とともに」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 何事ぞや。童(わらは)べと腹立ち給へるか 〔源氏物語〕
(現代語訳:どうしたのか。子ども達とけんかをしなさったのか)
格助詞「と」の『比較の基準』用法
比較の基準とは、格助詞の付いた語が比較の基準を示します。
現代語訳は「~と」「~と比べて」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ かたちなどは、かの昔の夕顔と劣らじや 〔源氏物語〕
(現代語訳:容貌などは、あの昔の夕顔と比べて劣らないだろうよ)
格助詞「と」の『引用』用法
引用とは、自分以外の人のことばを用いることを示します。
現代語訳はそのまま「~と」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 「いかなる所ぞ」と問へば 〔更級日記〕
(現代語訳:「(ここは)どういう所か」とたずねると)
格助詞「と」の『並列』用法
並列とは、語を並列に繋げる働きを示します。
現代語訳はそのまま「~と」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 白き鳥の、嘴(はし)と脚と赤き、鴫(しぎ)の大きさなる 〔伊勢物語〕
(現代語訳:白い鳥であって、くちばしと脚とが赤い、鴫くらいの大きさの(鳥))
格助詞「と」の『変化の結果』用法
変化の結果とは、格助詞の付いた語が変化の結果を示します。
現代語訳はそのまま「~に」「~と」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 古き墳(つか)はすかれて田となりぬ 〔徒然草〕
(現代語訳:古い墳墓は掘り起こされて田になってしまった)
格助詞「と」の『比喩』用法
比喩とは、何かを他の何かに置き換えて表現することです。
現代語訳は「~のように」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 笛の音のただ秋風と聞こゆるに 〔更級日記〕
(現代語訳:笛の音がまるで秋風のように聞こえるというのに)
格助詞「と」の『強意』用法
強意とは、同じ動詞の間に置いて、意味を強めることを示します。
現代語訳は「~ものは全て」「どんどん~する」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ わが家にありとある人召し集めてのたまはく 〔竹取物語〕
(現代語訳:自分の家に(仕えて)いる人を全てお呼び集めになっておっしゃることには)
⑵ 食ひと食ひたる人々も、子供もわれも 〔宇治拾遺物語〕
(現代語訳:どんどん食いに食っている人々も、子供も自分も)
まとめ
今回学んだことをまとめます。
・格助詞「を」の2つの用法は『対象』『起点・経過点』である。
・『対象』 現代語訳:~を
・『起点・経過点』 現代語訳:~を
・格助詞「へ」の2つの用法は『方向』『対象・相手』である。
・『方向』 現代語訳:~に、~の方へ、~に向かって
・『対象・相手』 現代語訳:~に、~に対して
・格助詞「と」の7つの用法は『共同者』『比較の基準』『引用』『並列』『変化の結果』『比喩』『強意』である。
・『共同者』 現代語訳:~と、~とともに
・『比較の基準』 現代語訳:~と
・『引用』 現代語訳:~と
・『並列』 現代語訳:~と
・『変化の結果』 現代語訳:~に、~と
・『比喩』 現代語訳:~のように
・『強意』 現代語訳:~ものは全て、どんどん~する