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終助詞とは
助詞は、その代表的なものに「てにをは」があり、その機能は、他の語との関係を示したり、語に一定の意味を添えたりします。
終助詞は、助詞の種類のひとつであり、文の終わりに付いて、その文に一定の意味を添える働きがあります。
古文の終助詞の代表的なものには、「ばや・しか・てしか(てしが)・てしかな(てしがな)・にしか(にしが)・にしかな(にしがな)・なむ(なん)・もが・もがな・がな・な・そ・か・かな・かし」があります。
今回は、終助詞の「しか(しが)」「てしか(てしが)・てしかな(てしがな)」「にしか(にしが)・にしかな(にしがな)」について解説します。
終助詞「しか(しが)」「てしか(てしが)・てしかな(てしがな)」「にしか(にしが)・にしかな(にしがな)」について
終助詞「しか」は、過去の助動詞「き」の連体形「し」に願望を表わす助詞「か」の付いたものが一語化したものです。中古(平安時代)以降は濁音化した「しが」が使われるようになりました。
終助詞「てしか」は、完了の助動詞「つ」の連用形「て」に願望を表わす終助詞「しか」の付いたものが一語化したものです。中古(平安時代)以降は濁音化した「てしが」が使われるようになりました。
終助詞「てしかな」は、願望の終助詞「てしか」に詠嘆を表わす終助詞「な」の付いたものが一語化したものです。中古(平安時代)以降は濁音化した「てしがな」が使われるようになりました。
終助詞「にしか」は、完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」に願望を表わす終助詞「しか」の付いたものが一語化したものです。中古(平安時代)以降は濁音化した「にしが」が使われるようになりました。
終助詞「にしかな」は、願望の終助詞「にしか」に詠嘆を表わす終助詞「な」の付いたものが一語化したものです。中古(平安時代)以降は濁音化した「にしがな」が使われるようになりました。
終助詞「しか(しが)」「てしか(てしが)・てしかな(てしがな)」「にしか(にしが)・にしかな(にしがな)」の機能と接続
終助詞「しか(しが)」「てしか(てしが)・てしかな(てしがな)」「にしか(にしが)・にしかな(にしがな)」には、『自己の希望』という意味を添える働きがあります。
終助詞「しか(しが)」「てしか(てしが)・てしかな(てしがな)」「にしか(にしが)・にしかな(にしがな)」の接続は、連用形接続です。つまり、終助詞「しか(しが)」「てしか(てしが)・てしかな(てしがな)」「にしか(にしが)・にしかな(にしがな)」が動詞や助動詞の後に続けて用いられる場合、その前に置かれる動詞や助動詞は連用形になります。
終助詞「しか(しが)」の『自己の希望』用法
『自己の希望』は、自分の身に起こってほしい希望を表す言い方です。
現代語訳は「~たい」「~たいものだなあ」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ まそ鏡見しかと思ふ妹(いも)も逢はぬかも玉の緒(を)の絶えたる恋のしげきこのころ 〔万葉集〕
(現代語訳:(姿を)見たいと思う恋人に逢わないものかなあ一度途絶えた恋心がしきりによみがえってくるこのごろだ)
⑵ 甲斐(かひ)が嶺(ね)をさやにも見しがけけれなく横ほり臥(ふ)せる小夜(さや)の中山 〔古今和歌集〕
(現代語訳:甲斐(山梨県)の山をはっきりと見たいなあ。(それなのに)心なく手前に横たわって臥している小夜の中山だよ)
終助詞「てしか(てしが)・てしかな(てしがな)」の『自己の希望』用法
『自己の希望』は、自分の身に起こってほしい希望を表す言い方です。
現代語訳は「~たい」「~たいものだなあ」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 朝なさなあがる雲雀(ひばり)になりてしか都に行きてはや帰り来む 〔万葉集〕
(現代語訳:朝ごとにあがるひばりになりたいものだなあ。(そうしたら)都に行ってすぐに帰って来よう)
⑵ いかでこのかぐや姫を得てしがな、見てしがなと 〔竹取物語〕
(現代語訳:どうにかしてこのかぐや姫を手に入れたいものだなあ、妻にしたいものだなあと)
終助詞「にしか(にしが)・にしかな(にしがな)」の『自己の希望』用法
『自己の希望』は、自分の身に起こってほしい希望を表す言い方です。
現代語訳は「~たい」「~たいものだなあ」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 伊勢の海に遊ぶ海人(あま)ともなりにしが浪(なみ)かき分けてみるめ潜(かづ)かむ 〔(後撰)恋五〕
(現代語訳:伊勢の海で遊ぶ海人にでもなりたいなあ。(そうしたら)波をかき分けて潜ってみるめ(=海藻の名)をとろう(=あなたに会う機会を得よう))
⑵ なほ、いかで心として死にもしにしがな 〔蜻蛉日記〕
(現代語訳:やはり、なんとかして自分の意志で死にもしたいものだなあ)
「しか」の識別
「しか」に関して、実は以下のように3通りの解釈が可能なため、この3通りの内、文中でどの「しか」が用いられているか識別する必要があります。
- ①終助詞の「しか」…(~たい・~たいものだなあ)
- ②副詞の「しか(然)」…(そのように・そのとおりに)
- ③助動詞「き」の已然形の「しか」…(~た)
活用及び接続に注目して識別する方法
活用及び接続に注目することで「しか」を識別することが可能です。
【識別その1】 ①終助詞の「しか」、③助動詞「き」は連用形接続なので、その前に置かれる動詞や助動詞は連用形になります。つまり、前に置かれた語が活用を持つ語でない、または活用を持つ語であっても連用形でない場合には、①③の可能性はなくなり、この場合②副詞の「しか(然)」であると判断できます。
⑴ いにしへもしかにあれこそうつせみも嬬(つま)をあらそふらしき 〔万葉集〕
(現代語訳:昔もそのようだからこそ、現世の人も妻を(とりあって)争うらしい)
例文では、「しか」の前が活用を持たない助詞の「も」であるため、この「しか」は副詞であると判断できます。
【識別その2】 ③助動詞「き」の已然形「しか」の後には已然形接続の語が続きます。したがって、「しか」の後に続く語が已然形接続の語であれば③助動詞「き」であり、「しか」の後に続く語が已然形接続の語でなければ①終助詞の「しか」だと判断できます。或いは、係助詞「こそ」の係り結びの法則によって已然形となっている場合は③助動詞「き」であると判断できます。
⑴ 昨日(きのふ)こそ早苗(さなへ)取りしかいつのまに稲葉をよぎて秋風の吹く 〔古今和歌集〕
(現代語訳:ついこの間、早苗をとって田植をしたのに、いつのまにか稲の葉がそよいで、もう秋風が吹いている)
例文では、助動詞の「き」が係助詞「こそ」の係り結びの法則によって已然形「しか」のカタチを取っていると判断できます。
まとめ
古文で用いられる終助詞「しか(しが)」「てしか(てしが)・てしかな(てしがな)」「にしか(にしが)・にしかな(にしがな)」の用法・現代語訳は次の通り。
用法:『自己の希望』 現代語訳:~たい・~たいものだなあ
古文で用いられる終助詞「しか(しが)」「てしか(てしが)・てしかな(てしがな)」「にしか(にしが)・にしかな(にしがな)」は連用形に接続する。