格助詞とは
助詞は、その代表的なものに「てにをは」があり、その機能は、他の語との関係を示したり、語に一定の意味を添えたりします。
格助詞は、助詞の種類のひとつであり、その助詞の付いた語が、文中でどういう資格になるかを示す働きがあります。
古文の格助詞の代表的なものには、「が・の・を・に・へ・と・より・から・にて・して」があります。
古文の格助詞は、現代語の格助詞と共通する部分が多いので比較的容易に理解することが可能です。
今回は、格助詞の「に」「にて」「して」について解説します。
格助詞の接続
格助詞は、体言や活用語(動詞や助動詞、形容詞、形容動詞)の連体形に接続します。
次に、格助詞「に」「にて」「して」の用法を学びましょう。
格助詞「に」「にて」「して」の用法
格助詞「に」には、『場所』『時間』『動作の主体』『対象・相手』『資格・地位』『原因・理由・目的』『手段・方法』『動作・変化の結果』『比較の基準』『強調』『敬主格』の11の用法があります。
格助詞の「にて」は格助詞「に」に接続助詞「て」が付いて一語化したものです。
格助詞「にて」には、『場所・時間』『手段・材料』『原因・理由』の3つの用法があります。
格助詞の「して」は動詞「為(す)」の連用形「し」に接続助詞「て」が付いて一語化したものです。
格助詞「して」には、『手段・方法』『動作の共同者』『使役の相手』の3つの用法があります。
それでは、それぞれの格助詞の用法について、詳しくみていきましょう。
格助詞「に」の用法
格助詞「に」には、『場所』『時間』『動作の主体』『対象・相手』『資格・地位』『原因・理由・目的』『手段・方法』『動作・変化の結果』『比較の基準』『強調』『敬主格』の11の用法があります。
格助詞「に」の『場所』用法
場所とは、格助詞の付いた語が場所を示します。
現代語訳はそのまま「~に」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 比叡の山に児ありけり 〔宇治拾遺物語〕
(現代語訳:比叡山の延暦寺に行儀見習いの少年がいた)
格助詞「に」の『時間』用法
時間とは、格助詞の付いた語が時間を示します。
現代語訳はそのまま「~に」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ それの年の十二月(しはす)の二十日あまり一日(ひとひ)の日の戌(いぬ)の刻(とき)に、門出(かどで)す 〔土佐日記〕
(現代語訳:ある年の陰暦十二月の二十一日の日の戌の時(=午後八時ごろ)に、出発する)
格助詞「に」の『動作の主体』用法
動作の主体とは、格助詞の付いた語が受身表現や使役表現などの動作主を示します。
現代語訳は「~に」「~によって」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ ありがたきもの。舅(しうと)にほめらるる婿 〔枕草子〕
(現代語訳:めったにないもの。(それは)舅にほめられる婿)
格助詞「に」の『対象・相手』用法
対象・相手とは、格助詞の付いた語が動作や使役などの対象・相手を示します。
現代語訳はそのまま「~に」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 下部(しもべ)に酒飲ますることは、心すべきことなり 〔徒然草〕
(現代語訳:身分の低い者に酒を飲ませることは、注意しなくてはならないことだ)
格助詞「に」の『資格・地位』用法
資格・地位とは、格助詞の付いた語が資格・地位を示します。
現代語訳は「~として」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 火たく衛士(ゑじ)にさし奉りたりけるに 〔更級日記〕
(現代語訳:(国司がこの人を)かがり火をたく衛士として指名して(御所に)差し上げたところ)
格助詞「に」の『原因・理由・目的』用法
原因・理由・目的とは、格助詞の付いた語が原因・理由・目的を示します。
現代語訳は「~によって」「~により」「~のために」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ あづまの方に住むべき国求めにとて行きけり 〔伊勢物語〕
(現代語訳:東国の方に住むにふさわしい国を探し求めるためにと思って出かけていった)
格助詞「に」の『手段・方法』用法
手段・方法とは、格助詞の付いた語が手段・方法を示します。
現代語訳は「~で」「によって」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ この皮衣は、火に焼かむに焼けずはこそ真(まこと)ならめ 〔竹取物語〕
(現代語訳:この皮衣は、火で焼こうとして焼けなかったならば、本物であろう)
格助詞「に」の『動作・変化の結果』用法
動作・変化の結果とは、格助詞の付いた語が動作・変化の結果を示します。
現代語訳はそのまま「~に」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 三月(みつき)ばかりになるほどに、よきほどなる人に成りぬれば 〔竹取物語〕
(現代語訳:三か月ほどがたつころに、(成人の儀式に)ふさわしいほどである(大きさの)人になったので)
格助詞「に」の『比較の基準』用法
比較の基準とは、格助詞の付いた語が比較の基準を示します。
現代語訳は「~より」「~と比べて」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 昼の明(あ)かさにも過ぎて光りわたり 〔竹取物語〕
(現代語訳:昼の明るさよりもまさってあたり一面光り)
格助詞「に」の『強調』用法
強調とは、同じ動作の間に格助詞を加えて重ねることによって強調を表します。
現代語訳は「ひたすら~する」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 盗人泣きに泣きて、言ふことなし 〔今昔物語集〕
(現代語訳:盗人はひたすら泣くばかりで、ことばもない)
格助詞「に」の『敬主格』用法
敬主格とは、格助詞の付いた語が身分の高い人であり主語になることを示します。
現代語訳は「~におかれて」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 御前(おまへ)にもいみじうおち笑はせ給ふ 〔枕草子〕
(現代語訳:皇后におかれてもたいそう納得してお笑いになられる)
⑵ 弘徽殿(こきでん)には、久しう上の御局(つぼね)にも、まうのぼり給はず 〔源氏物語〕
(現代語訳:弘徽殿の女御(にょうご)におかれては、長い間上の御局にも、参上なさらず)
格助詞「にて」の用法
格助詞「にて」には、『場所・時間』『手段・材料』『原因・理由』の3つの用法があります。
格助詞「にて」の『場所・時間』用法
場所・時間とは、格助詞の付いた語が場所・時間を示します。
現代語訳は「~で」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 潮海(しほうみ)のほとりにてあざれあへり 〔土佐日記〕
(現代語訳:塩海のそばでふざけあっている)
⑵ 十二にて御元服し給ふ 〔源氏物語〕
(現代語訳:(光源氏は)十二歳でご元服をしなさる)
格助詞「にて」の『手段・材料』用法
手段・材料とは、格助詞の付いた語が手段・材料を示します。
現代語訳は「~で」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 舟にて渡りぬれば、相模(さがみ)の国になりぬ 〔更級日記〕
(現代語訳:舟で渡ったところ、相模の国(=神奈川県)になった)
格助詞「にて」の『原因・理由』用法
原因・理由とは、格助詞の付いた語が原因・理由を示します。
現代語訳は「~ので」「~によって」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ われ朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ 〔竹取物語〕
(現代語訳:私が毎朝毎夕見る竹の中にいらっしゃることによってわかった)
格助詞「して」の用法
格助詞「して」には、『手段・方法』『動作の共同者』『使役の相手』の3つの用法があります。
格助詞「して」の『手段・方法』用法
手段・方法とは、格助詞の付いた語が手段・方法を示します。
現代語訳は「~で」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ そこなりける岩に指(および)の血して書きつけける 〔伊勢物語〕
(現代語訳:そこにあった岩に、指の血で(歌を)書き付けた)
格助詞「して」の『動作の共同者』用法
動作の共同者とは、格助詞の付いた語が動作の共同者を示します。
現代語訳は「~とともに」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ もとより友とする人、一人二人して行きけり 〔伊勢物語〕
(現代語訳:以前から友人としている人、一人二人とともに行った)
格助詞「して」の『使役の相手』用法
使役の相手とは、格助詞の付いた語が使役の相手を示します。
現代語訳は「~に命じて」となります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 楫(かぢ)取りして幣(ぬさ)奉(たてまつ)らするに 〔土佐日記〕
(現代語訳:船頭(せんどう)に命じて、幣(=神へのささげ物)を差し上げさせると)
まとめ
今回学んだことをまとめます。
・格助詞「に」の11の用法は『場所』『時間』『動作の主体』『対象・相手』『資格・地位』『原因・理由・目的』『手段・方法』『動作・変化の結果』『比較の基準』『強調』『敬主格』である。
・『場所』 現代語訳:~に
・『時間』 現代語訳:~に
・『動作の主体』 現代語訳:~に、~によって
・『対象・相手』 現代語訳:~に
・『資格・地位』 現代語訳:~として
・『原因・理由・目的』 現代語訳:~によって・~により・~のために
・『手段・方法』 現代語訳:~で、~によって
・『動作・変化の結果』 現代語訳:~に
・『比較の基準』 現代語訳:~より、~と比べて
・『強調』 現代語訳:ひたすら~する
・『敬主格』 現代語訳:~におかれて
・格助詞「にて」の3つの用法は『場所・時間』『手段・材料』『原因・理由』である。
・『場所・時間』 現代語訳:~で
・『手段・材料』 現代語訳:~で
・『原因・理由』 現代語訳:~ので、~によって
・格助詞「して」の3つの用法は『手段・方法』『動作の共同者』『使役の相手』である。
・『手段・方法』 現代語訳:~で
・『動作の共同者』 現代語訳:~とともに
・『使役の相手』 現代語訳:~に命じて