敬語とは
敬語は、相手(身分の高い人など)を敬う気持ちを表わす語です。
敬語には、敬意の方向(=誰から誰に対する敬意を表すか)に応じて、尊敬語と謙譲語、丁寧語の3種類があります。
敬意の方向の内、〔誰からの敬意か(=敬語を発する人物)〕については、文の種類で決まります。
・会話文であれば、敬語を発する人物は、会話の話し手になります。つまり、会話文中の敬語は、会話の話し手が敬意を表していることになります。
・手紙文であれば、敬語を発する人物は、手紙の書き手になります。つまり、手紙文中の敬語は、手紙の書き手が敬意を表していることになります。
・地の文(会話文や手紙文以外の文)であれば、敬語を発する人物は、文章の書き手(=作者)になります。つまり、地の文中の敬語は、文章の書き手が敬意を表していることになります。
そして、〔誰に対する敬意か〕によって、尊敬語と謙譲語、丁寧語の3種類に分かれます。
それでは、それぞれの敬語について説明します。
尊敬語とは
・尊敬語は、動作主(=身分が高い人)に対し敬意を表す際に使われる語です。
例えば、「先生がご覧になる」という会話文の場合、「ご覧になる」という敬語は、会話の話し手から動作主である先生への敬意を表します。
尊敬語を含む古文の例文を紹介します。
⑴ 新王(みこ)、おほとのごもらで、明かしたまうてけり 〔伊勢物語〕
(現代語訳:新王は、おやすみにならないで、夜を明かしなさってしまった)
「おほとのごもら(おほとのごもる)」は「おやすみになる」という意味の尊敬語で、ここでは、文の書き手(=作者)から「おやすみになる」という動作をした新王に対する敬意を表しています。
代表的な古文の尊敬語には次のようなものがあります。
謙譲語とは
・謙譲語は、動作の受け手(=身分が高い人)に対し敬意を表す際に使われる語です。
例えば、「生徒が先生の所へ伺う」という地の文の場合、「伺う」という敬語は、文の書き手から動作の受け手である先生への敬意を表します。
謙譲語を含む古文の例文を紹介します。
⑴ 侍大将上総守忠清、大将軍の御前(おまへ)に参りて 〔平家物語〕
(現代語訳:侍大将の上総守忠清は、大将軍の御前に参上して)
「参り(参る)」は「参上する」という意味の謙譲語で、ここでは、文の書き手(=作者)から「参上する」という動作を受けた大将軍に対する敬意を表しています。
代表的な古文の謙譲語には次のようなものがあります。
丁寧語とは
・丁寧語は、話し手(書き手)から聞き手(読み手)に対し敬意を表す際に使われる語です。
例えば、「伝えたい事があります」という会話文の場合、「あります」という敬語は、話し手から聞き手への敬意を表します。
丁寧語を含む古文の例文を紹介します。
⑴ 翁、皇子(みこ)に申すやう、「いかなる所にかこの木は候ひけむ」 〔竹取物語〕
(現代語訳:翁が、皇子に申し上げるには、「どのようなところにこの木はありましたのでしょうか」)
「候ひ(候ふ)」は「あります」という意味の丁寧語で、ここでは、話し手の翁から会話の聞き手である皇子に対する敬意を表しています。
尊敬語と謙譲語と丁寧語
古文の基本動詞の尊敬語と謙譲語、丁寧語の関係は次のようになります。
補助動詞について
敬意を表す動詞には、本動詞と補助動詞があります。
例えば、
・尊敬の本動詞は、動作と尊敬の両方の意味を表わす動詞です。
・尊敬の補助動詞は、動詞に付き、尊敬の意味だけを表わす動詞です。
補助動詞には、尊敬の補助動詞、謙譲の補助動詞、丁寧の補助動詞と3種類あります。
・尊敬の補助動詞は、動詞に付けて『尊敬』の意味を与える役割を持つ動詞のことを言います。
・謙譲の補助動詞は、動詞に付けて『謙譲』の意味を与える役割を持つ動詞のことを言います。
・丁寧の補助動詞は、動詞に付けて『丁寧』の意味を与える役割を持つ動詞のことを言います。
古文の代表的な補助動詞には、次のようなものがあります
二重敬語(最高敬語)とは
二重敬語(最高敬語)とは、尊敬語を重ねて「尊敬語+尊敬語」とすることで、動作をする人(=動作主)に対して特別高い敬意を表す言い方です。
二重敬語は、天皇・中宮などに使われることが多いので、二重敬語が使われている場合の動作主(=主語)は天皇・中宮である可能性が高いということを覚えておきましょう!
それでは、二重敬語を例文で確認してみましょう。
⑴ 宮はをかしう聞かせ給ふ 〔堤中納言物語〕
(現代語訳:中宮は興味深くお聞きになる)
この例文では、尊敬の助動詞「す」と、尊敬の補助動詞「給ふ」の二つの敬語が組み合わされた二重敬語(最高敬語)が使われています。
ここでは、文の書き手(=作者)から「聞く」という動作をする人物である中宮に対する特別高い敬意が込められています。
絶対敬語とは
絶対敬語とは、「奏(そう)す」「啓(けい)す」など、敬意の相手が決まっている敬語のことをいいます。
謙譲語「奏す」は、「(天皇・上皇に)申し上げる」という意味で、敬意の相手(=動作の受け手)は「天皇・上皇」と決まっています。
謙譲語「啓す」は、「(中宮・皇太子に)申し上げる」という意味で、敬意の相手(=動作の受け手)は「中宮・皇太子」と決まっています。
例文で確認しましょう。
⑴ かぐや姫、答へて奏す 〔竹取物語〕
(現代語訳:かぐや姫は、答えて天皇に申し上げる)
例文では、「奏す」とあるので、文中に書いてなくても答えた相手が天皇であると分かります。
二方面への敬意
二方面への敬意は、謙譲語と尊敬語を重ねて「謙譲語+尊敬語」とすることで、一つの動作に対して、動作をする人(=動作主)と動作を受ける人(=動作の受け手)の両方に対して敬意を表す言い方です。
例文で確認してみましょう。
⑴ かぐや姫、いみじく静かに、公(おほやけ)に御文奉り給ふ 〔竹取物語〕
(現代語訳:かぐや姫は、たいそう静かに、天皇にお手紙を差し上げなさる)
例文では、「奉り給ふ」という部分が文の書き手(=作者)から二方面(天皇とかぐや姫)への敬意を表しています。
「奉り(奉る)」は「差し上げる」という意味の謙譲語で、ここでは、文の書き手(=作者)から「差し上げる」という動作を受けた天皇(=公)に対する敬意を表しています。
また、「給ふ」は尊敬の補助動詞で、ここでは、文の書き手(=作者)から「差し上げる」という動作をするかぐや姫に対する敬意を表しています。
最後に
今回は古文の敬語の基礎知識について説明しました。
敬語の古文単語に関しては下記で紹介してますので、合わせてご確認ください。