「なり」の識別について解説します。
目次
「なり」の識別
『伝聞・推定』の助動詞「なり」の連用形と終止形は「なり」で、『断定・存在』の助動詞「なり」の連用形と終止形も「なり」です。
また、『伝聞・推定』の助動詞「なり」の連体形は「なる」で、『断定・存在』の助動詞「なり」の連体形も「なる」です。
さらに、『伝聞・推定』の助動詞「なり」の已然形は「なれ」で、『断定・存在』の助動詞「なり」の已然形と命令形も「なれ」です。
したがって、動詞の後に「なり」もしくは「なる」や「なれ」という語が続いている場合、その「なり」「なる」「なれ」は『伝聞・推定』の助動詞「なり」である可能性と『断定』の助動詞「なり」である可能性の2つ可能性が考えられます。
⑴ 秋の野に人まつ虫の声すなり 〔古今和歌集〕
⑵ 改めて益なきことは、改めぬをよしとするなり 〔徒然草〕
(『伝聞・推定』の助動詞「なり」については下のリンク先にて学べます)
(『断定・存在』の助動詞「なり」については下のリンク先にて学べます)
つまり、動詞の後に「なり」、「なる」または「なれ」という語が続いている場合、それが『伝聞・推定』の助動詞「なり」であるのか、それとも『断定』の助動詞「なり」であるのかを識別しなければ、「なり」「なる」または「なれ」が示す意味が分からないということになります。
この「なり」「なる」と「なれ」の識別は、助動詞の接続する語、つまり、助動詞の直前の動詞に注目することで識別できます。
それでは、「助動詞の直前の動詞」に注目して行う「なり」「なる」「なれ」の識別を学びましょう。
「なり」「なる」「なれ」を直前の動詞に注目して識別する
『伝聞・推定』の助動詞「なり」は活用語(動詞や助動詞、形容詞、形容動詞)の終止形に接続(ラ変型にのみ連体形に接続)します。つまり、『伝聞・推定』の助動詞「なり」の直前の語の活用はラ変型を除き必ず終止形になります。
『断定・存在』の助動詞「なり」は活用語(動詞や助動詞、形容詞、形容動詞)の連体形に接続します。つまり、『断定・存在』の助動詞「なり」の直前の語の活用は必ず連体形になります。
直前の語が動詞である場合の識別
動詞の活用の表を見ると、四段・上一段・下一段活用以外の動詞については、終止形と連体形が異なるカタチをとるので、「なり」「なる」「なれ」の直前の語に注目することによって、その「なり」「なる」「なれ」が『伝聞・推定』の助動詞「なり」であるか『断定・存在』の助動詞「なり」であるかの判断ができます。
四段・上一段・下一段活用の動詞の場合は、終止形と連体形が同じカタチをとるので、直前の語を見ただけでは「なり」「なる」「なれ」を見分けることができません。
また、直前の語がラ変型の動詞の場合も、『伝聞・推定』の助動詞「なり」と『断定・存在』の助動詞「なり」の両方がラ変動詞の連体形に接続することになるので、直前の語を見ただけでは「なり」「なる」「なれ」を見分けることができません。
直前の語が名詞(体言)・副詞・助詞の場合
『断定・存在』の助動詞「なり」は活用語(動詞や助動詞、形容詞、形容動詞)以外に、名詞(体言)・副詞・助詞に接続します。
つまり、「なり」「なる」「なれ」の直前の語が名詞(体言)・副詞・助詞の場合、その「なり」「なる」「なれ」は『断定・存在』の助動詞「なり」と判断できます。
それでは、「なり」「なる」「なれ」の直前の語に注目して、「なり」「なる」「なれ」を識別してみましょう。
⑴ 秋の野に人まつ虫の声すなり 〔古今和歌集〕
(現代語訳:秋の野原で人を待つという松虫の声がするようだ)
⑵ 改めて益なきことは、改めぬをよしとするなり 〔徒然草〕
(現代語訳:改めて効果がないことは、改めないのをよいとするのである)
⑶ 「火あやふし」と言ふ言ふ、曹司(ざうし)の方に去(い)ぬなり 〔源氏物語〕
(現代語訳:「火の用心」と言いながら、部屋の方に行ってしまうようだ)
例文⑴は、「なり」の直前が「す」でサ変動詞「為(す)(せ・し・す・する・すれ・せよ)」の終止形「す」です。動詞の終止形に接続しているので、「なり」は『伝聞・推定』の助動詞です。ここでは、「~ようだ」という『推定』の意味を表しています。
例文⑵は、「なり」の直前が「す」でサ変動詞「為(す)(せ・し・す・する・すれ・せよ)」の連体形「する」です。サ変動詞の連体形に接続しているので、「なり」は『断定・存在』の助動詞です。ここでは、「~である」という『断定』の意味を表しています。
例文⑶は、「なり」の直前が「去(い)ぬ」でナ変動詞「去(い)ぬ(去な・去に・去ぬ・去ぬる・去ぬれ・去ね)」の終止形「去ぬ」です。動詞の終止形に接続しているので、「なり」は『伝聞・推定』の助動詞です。ここでは、「~ようだ」という『推定』の意味を表しています。
⑴ 「奥山に猫またといふものありて、人をくらふなる」と人の言ひけるに 〔徒然草〕
(現代語訳:「奥山に猫またというものがいて、人を食うそうだ」と(ある)人が言ったところ)
⑵ 御前なる人々、一人二人づつ失せて 〔枕草子〕
(現代語訳:御前にいる女房たちが、一人二人ずついなくなって)
例文⑴は、「なる」の直前が「くらふ」で四段動詞「食(く)らふ(食らは・食らひ・食らふ・食らふ・食らへ・食らへ)」の終止形「食らふ」です。「食らふ」の終止形と連体形は同じ形「食らふ」ですが、「食らふ」が文末にあるので終止形になります。動詞の終止形に接続しているので、「なる」は『伝聞・推定』の助動詞です。ここでは、「~そうだ」という『伝聞』の意味を表しています。
例文⑵は、「なる」の直前が名詞の「御前」です。名詞に接続しているので、「なる」は『断定・存在』の助動詞です。ここでは、「~にいる」という『存在』の意味を表しています。
⑴ 比叡(ひえ)の山の麓(ふもと)なれば、雪いと高し 〔伊勢物語〕
(現代語訳:比叡の山の麓であるので、雪がとても高く積もっている)
例文⑴は、「なれ」の直前が名詞の「麓」です。名詞に接続しているので、「なれ」は『断定・存在』の助動詞です。ここでは、「~である」という『存在』の意味を表しています。
音に関連する『伝聞・推定』の「なり」
音に関連した語とともに「なり」「なる」「なれ」が用いられている場合、その「なり」「なる」「なれ」は『伝聞・推定』の助動詞「なり」である可能性が高いです。
例文で確認してみましょう。
⑴ また聞けば、侍従の大納言の御むすめなくなりたまひぬなり 〔更級日記〕
(現代語訳:また聞くところによると、侍従の大納言の御むすめがお亡くなりになったそうだ)
⑵ 山ほととぎす今ぞ鳴くなる 〔古今和歌集〕
(現代語訳:山ほととぎすが、今まさに鳴いているようだ)
例文⑴は、「聞け」という音に関連した動詞とともに「なり」が用いられているので、「なり」は『伝聞・推定』の助動詞と考えられます。ここでは、「~そうだ」という『伝聞』の意味を表しています。
例文⑵は、「鳴く」という音に関連した動詞とともに「なる」が用いられているので、「なる」は『伝聞・推定』の助動詞と考えられます。ここでは、「~ようだ」という『推定』の意味を表しています。
「なり」が動詞や形容動詞の一部である場合
「なり」「なる」「なれ」が『伝聞・推定』や『断定・存在』の助動詞ではなく、動詞の「成(な)る」である場合と、形容動詞「~なり」の一部である場合があります。
例文で確認してみましょう。
⑴ 火桶(ひをけ)の火も、白き灰(はひ)がちになりてわろし 〔枕草子〕
(現代語訳:火鉢の火も、白い灰がちになってよくない)
⑵ 遣水(やりみづ)の音のどやかなり 〔徒然草〕
(現代語訳:遣水の音がのんびりしている)
⑶ 世の中、今めかしきことなく、静かなり 〔源氏物語〕
(現代語訳:世の中は、華やかな行事もなく、静かである)
⑷ この子いと大きになりぬれば 〔竹取物語〕
(現代語訳:この子がとても大きくなったので)
例文⑴の「なり」は、動詞の「なり」です。
例文⑵の「なり」は、形容動詞「のどやかなり」の一部です。
例文⑶の「なり」は、形容動詞「静かなり」の一部です。
例文⑷の「なり」は、動詞の「なり」です。
以上、「なり」の識別について説明しました。
まとめ
今回は、「なり」の識別について学びました。
「なり」「なる」「なれ」の識別は次のように行います。
- 「なり」「なる」「なれ」の直前の動詞(ラ変動詞を除く)が終止形の場合は、『伝聞・推定』の助動詞「なり」である。
- 「なり」「なる」「なれ」の直前の動詞(ラ変動詞を除く)が連体形の場合は、『断定・存在』の助動詞「なり」である。
- 「なり」「なる」「なれ」の直前の語が名詞(体言)・副詞・助詞である場合は、『断定・存在』の助動詞「なり」である。
- 「なり」「なる」「なれ」のが音に関連した動詞とともに用いられている場合は、『伝聞・推定』の助動詞「なり」である可能性が高い。
「なり」の識別の解説は以上です。